事業を急拡大した2社の実例から学ぶ 「眠れるビジネス」の起こし方
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新たなビジネスを生み出していく過程には、たくさんの壁が立ちはだかります。
大前提として、おもしろいアイデアが欠かせません。そして、そのビジネスが本当に世の中に必要とされているのか、検証を行ったり、人材を確保したりと、フェーズに応じて発生するさまざまな課題を乗り越えていく必要があります。
そこで今回、ビジネスの着想から、検証、事業の運用までの一連の流れ「眠れるビジネスの起こし方」について、対談を実施。ご協力いただいたのは、株式会社寿美家和久の代表取締役小清水丈久様と、株式会社IVRyの代表取締役奥西亮賀様です。
小清水様は老舗地料亭の味を自宅で楽しむことができる「仕出し割烹しげよし」を立ち上げました。しげよしは、全国の料亭約400店舗と提携することで、お祝いや法要など集いの席を彩る料理を、気軽にデリバリーで注文できる仕組みを完成させました(株式会社寿美家和久の事例はこちら)。
奥西様は月額3000円で利用できる電話自動応答サービス「IVRy(アイブリー)」をスタートさせ、現在、登録アカウント数は3000以上にのぼります(株式会社IVRyの事例はこちら)。
ビジネスを成功させたお二人の対話から、これから事業を始めようと考えている方に役立つヒントを探ります。
右:株式会社IVRy 代表取締役 奥西亮賀様、中央:株式会社寿美家和久 代表取締役 小清水丈久様
小さく始めて大きく広げる
――「仕出し割烹しげよし」は全国400店舗と提携し、料亭の料理をご自宅にお届けするという新しいプラットフォームを立ち上げられていますね。電話自動応答サービス「IVRy(アイブリー)」は現在3000アカウントを超え、累積着電数も300万件を突破とのこと。まずは、ビジネスを発想したきっかけについて教えてください。
小清水 仕出し料理を提供する、という意味では本当にベタなビジネスを展開していると思っています。ただ、その仕組みをフランチャイズモデルとして、全国の料亭に卸しているところが当社のおもしろいポイントなのかなと感じています。そもそものビジネス発想のきっかけは家業の延長にありました。しげよしの母体となる料亭は明治時代に創業した「寿美家」です。私はここに婿入りする形で入ったのですが、料亭は年々お客様が減っているということが問題にありました。なんとかしようと思っても、広告を打ち出したり、PR活動を行ったりするのは「無粋だ」という温度感もあって。伝統を守りながらも新しいビジネスを生み出す方法はないか。そう考えたとき、これまで料亭のお座敷で表現していた晴れの日の食事を、ご家庭で気軽に試していただいてはどうかと考えたんです。しげよしは、インターネット上のバーチャルブランドです。日本の歴史ある料亭にも数多く参加いただいています。しげよしのサイトや電話を通じてお客様からご注文があった際、システムを使ってご加盟いただいている料亭に割り振っています。お客様にはその料亭の屋号ではなく「しげよし」として料理を届けるので、もともとのお店の伝統やイメージを守ることができます。大口注文が入った際も「えびが何個必要」など、システムがメニューに応じて必要な材料を自動計算してくれるので、料理人の負荷も少なく、料亭からもご好評いただいています。
奥西 IVRyはかかってきた電話に自動で応答したり、転送したりする電話自動応答サービスです。実は、もともと私は「電話なんていらないのでは」と思っていた側の人間でした。けれども、起業した後に自社のサイトなど、代表番号を書かなければならない場面が多くありました。固定電話を持っていなかったので、すべて個人の携帯電話番号を記載していました。ところが、エンドユーザーから電話が入ることはほとんどなく、かかってくるのは基本的に営業電話ばかり。そのため、ずっと着信を無視していた時期があったんです。するとあるとき、銀行から「代表番号に電話をかけてもつながらず、本人確認がとれないため、融資の審査を落としました」という旨のメールが来て。このとき、重要な電話を取り損ねてしまう状況はよくない、電話を受ける側が、出たい電話をコントロールできるようになったほうが、日本はもっとよくなると思ったんです。
――お二人とも、興味深いお話をありがとうございます。そこからサービスの開発、リリースまではどのように進めていきましたか。
小清水 料理はなまものなので、一気に展開すると当然、材料のロスが出ます。地域ごとに試しながら、少しずつ規模を広げていきました。しげよしではお料理を盛り付けた器の回収も行っているのですが、そこでお客様にご感想をお尋ねしたり、お客様と試食会をしたりすることもありました。どの地区でも一定の数値を得られているのなら次へ展開、というふうに判断していました。
奥西 当社の場合、いきなりプロダクトを用意しなかったんです。はじめはランディングページのみをつくり、広告を出すなどしてお客様の反響を見ていました。そこで集まったお客様に対してヒアリングをし、どんな仕組みがほしいかを伺い、それを組み上げて提供していました。IVRyを思いついてから、2週間ほどでリリースに至りましたね。
小清水 すごい、かっこいい。
奥西 ありがとうございます。検証を重ねることが大切だと思っていて。コミュニケーションツールのSlackなど、海外でも流行っているサービスを見ていると、最初は「ベータ版」として無料で提供しているものが多いんです。ユーザーはどんどん使ってくれますし、仮にバグが起きても、あまり怒ったりしない。提供側としても、調査会社を利用しなくてもエンドユーザーのアクションデータをダイレクトに取得することができる。ロイヤリティーの高いお客様に依頼すれば、ヒアリングにも積極的に協力してくれます。
――なるほど。事業を拡大するにあたって、人材はどのように確保しましたか。
小清水 本社が三重県なので、県内だけでは人材を確保するのが難しくて。そのため、3分の1は県外の方で、リモートで働いてくれています。料亭の大将とは……一緒に銭湯へ行って仲良くなるようにしています。やっぱり、裸の付き合いって大切なんです(笑)。
奥西 (笑)。でも、私も裸の付き合いは重要だと思っていて、サウナによく行きます。友人やこれまで一緒に働いたことのある人たちに、そのような場で事業について話すと「おもしろそう」「手伝わせて」と、言ってもらえることも多いですね。起業した当初は社員1名でしたが、約1年後には20名弱にまで増えています。
――デジタルの世界と、アナログでの人とのつながりがうまくかけ合わさっているのですね。今後の展開がますます楽しみですね。
小清水 時代の流れとともにおぼろげになってきてはいますが、お子様の百日祝いや、ご両家の顔合せ、還暦の祝いなど、人生の節目やそのための集いが多いことは、人の幸せにもつながると考えています。そんな節目節目にお料理を提供し、日本の伝統を守ることは、私たち料亭としての役割だと自負しています。仕出しという形に変わっても、そういった場を表現し続けたいですね。
奥西 最近では大企業のお客様も増えてきましたが、基本的には私は中小企業をターゲットにしています。これには理由があって、ご存知の通り、日本は労働人口も減り続け、国際競争力も下がってきていると言われています。現時点で経済性は11位ですが、ビジネス効率性というのが55位とめちゃくちゃ悪いんです。日本の企業は0.3%が大企業で、残り99.7%が中小企業です。この99.7%が、効率的に働くことができ、自分達がやりたいビジネスに集中できる環境が整えば、日本は再び強くなれると感じていて。私たちの事業が、もっとたくさんの企業のお役に立つことができればと思います。