Twilio SIP トランクサービス〜UCaaS利用、CCaaS利用、BYOC構成対応などを解説

July 12, 2021
執筆者

BYOC secrets JP

この記事はAnnie Benitez Pelaezこちらで公開した記事(英語)を日本語化したものです。

オンプレミスベースの通信システムからクラウドベースに移行する企業は増加の一途を辿っています。このような状況で、企業のITマネージャーは、利用できる重要な構成を見落としがちです。例えば、クラウドベースのユニファイドコミュニケーション(UC)やコンタクトセンター(CC)の主要プロバイダーが提供するBring Your Own Carrier(BYOC)構成を選び、SIPトランク経由でPSTN(公衆電話網)に接続することができます。BYOC構成は、クラウド通信ベンダーが提供するバンドル型PSTN接続に対して重要な代替手段として十分検討に値します。

クラウドベースのUCサービスやCCサービスの多くで提供される既定の構成は、バンドル型ソリューションです。バンドルですからもちろんワンストップショップが可能になるという利便性があります。それにもかかわらず、PSTN接続をアンバンドルしBYOC構成を選ぶ際には、どのような背景があるのでしょうか。本稿では、その判断に関係する要素を慎重に検討し、トレードオフについても考察します。本ブログを、貴社の事情に合わせた最善の決定をするための参考としていただけば幸いです。

クラウド通信 - 多くのメリットと注意点

多くの企業は、オンプレミスのVoIP/UCとコンタクトセンターのインフラストラクチャをクラウドサービスプロバイダーに移行しています。また世界的パンデミックを契機に、そのペースは加速しました。2020年のNemertesの調査によると、Unified Communications as a Service(UCaaS)プラットフォームに移行した企業は34%にのぼり、2019年時点の19%から増加しています。IDCが発表した指標によると、UCaaS業界の2020年の成長率予測は21.2%です。

企業が通信システムをクラウドに移行する背景には、説得力のある理由が多数あります。

  • コスト削減 - サーバーやソフトウェアの購入・保守が不要になるため、管理が簡単になります。
  • 豊富な機能 - UCaaSサービスでは、PSTN経由の通話発着信、会議、画面共有、プレゼンス機能、チャット機能が統合され、内部コミュニケーションが多彩になります。コンタクトセンターサービス(CCaaS)では、AI駆動の機能により多くの生産性向上が可能です。
  • 新たなユースケースのサポート - リモートワーカーやコンタクトセンターの音声ボットなどの新たなユースケースへの対応が容易です。
  • 将来性のあるサービス - プロバイダーはUCやコンタクトセンターの新機能を継続的に追加していくため、ユーザー企業として利用すればいいだけです。

ITマネージャーからすれば、最大のメリットは簡素化でしょう。通信システムをクラウド通信プロバイダーに移行すると、ワンストップショップを実現できます。(最悪の場合でも、別個のコンタクトセンターサービスを追加した「ツー」ストップショップです。)

バンドル型PSTN接続による簡素化

クラウド通信プロバイダーが簡素化のために用いる手法の1つが、PSTN接続をサービスにバンドルする方法で、UCサービスの各ユーザーやコンタクトセンターの各オペレーターはPSTNに接続されます。UCaaSの場合、ユーザーあたりの月額定額料金に該当の機能セットの利用が含まれ、これに該当の通話料が追加されます。クラウド型コンタクトセンターサービスの料金は、オペレーターあたりの定額料金にさまざまなコンタクトセンター機能が含まれ、これに該当の通話料(従量制)が追加されます。

バンドル型の構成の場合、UCとコンタクトセンターのいずれのサービスでも、サービスの管理ポータルから新しい電話番号を購入・プロビジョンできます。サービスの背後では、クラウド通信プロバイダーは地域の通信事業者と連携し、PSTN接続を適宜アレンジしています。クラウド通信プロバイダーは電話番号を一括購入し、その顧客にサービスを提供する都度、必要なSIPトランクをプロビジョンします。

バンドル型PSTN接続の課題

ただし、バンドル型PSTN接続による簡素化は高くつきます(文字どおりに、あるいは比喩的な意味でも)。SIPトランクの管理に慣れているITマネージャーは、トレードオフを把握する必要があります。

  • コスト増 - バンドル型の料金は、定額制か従量制かを問わず、一般的に高めです。平均的なユーザーの場合、定額料金は、オンプレミスVoIP/UCとSIPトランクを使用する従来の従量制電話サービスよりも高くなるのが一般的です。クラウド通信プロバイダーは独自のSIPトランクサービスを運営しておらず、通信事業者からSIPトランクを購入していることが背景にあります。
  • 地理的な対応範囲 - ほとんどのクラウド通信サービスは、地理的な対応範囲が限定的です。たとえば、DIDとフリーダイヤル番号を購入できるのは30~40か国です。緊急通報サービス(例: 米国のE911)等を考える場合には、それよりも狭い範囲に限定されるでしょう。
  • コントロール - PSTN経由の通話のルーティング方法は制御できません。突発的な事象に応じて実施するルーティングの変更は限定的となり、またオンプレミスのインフラストラクチャとクラウド通信プロバイダー間の移行は複雑になります。最大のデメリットは、クラウド通信プロバイダーを将来A社からB社へと変更する必要が生じても実際の変更が難しいことでしょう。
  • 品質と信頼性のばらつき - クラウド通信プロバイダーは、地域の通信事業者を使用しPSTN接続サービスをつなぎ合わせるため、品質と信頼性に大きなばらつきがあります。例えば、高品質音声は一部の国でしか利用できません。一部の地域では障害が頻繁に発生する可能性があります。
  • 複雑性 - DIDは、UCやコンタクトセンターなど、利用するクラウドサービスごとに異なるプロバイダーにより管理されます。番号の変更や再割り当てが難しくなりがちです。

クラウド通信サービスを早期に導入した中小企業の場合、こうしたトレードオフは想定の範囲内です。中小企業では組織の規模が比較的小さく、国際事業は限定的にしか展開されていません。ITマネージャーは、管理コストの低減や簡素化と引き換えに、電話料金が多少高くなることを受け入れるでしょう。しかし、クラウド通信サービスが主流になるために、これらのトレードオフの解消が本来的には求められていました。

クラウド通信プロバイダーはBYOC構成を選択肢として提供

UCaaSやCCaaSのプロバイダーはBYOC構成を導入しました。これはプロバイダーのクラウド通信サービスを、顧客が希望するSIPトランクサービスと組み合わせる構成・選択肢です。UCaaSやCCaaSのプロバイダーは、自社のアプリケーションサービスからPSTN接続を切り離すことによりコアコンピテンシー(主軸となる事業・サービス分野)に注力できるとともに、顧客にはSIPトランク専門ベンダーの電話サービスを選ぶ自由を与えられるので、総合的にメリットを提供できると認識しています。

BYOC構成により、UCaaSやCCaaSソリューションのエンドユーザーは、クラウド通信サービスが提供するリッチな機能群と併せて、専業プロバイダが提供するSIPトランクサービスによりもたらされる高品質かつ低コストのグローバルなPSTN通話機能を利用できます。

BYOCは広く提供されるように

クラウド通信サービスプロバイダーがいかに迅速にBYOC構成への対応を追加したか(以下の表を参照)に基づいて判断すると、BYOC構成は広く成功していると言えます。以下の表に見られるように、今やUCやコンタクトセンターの主要ベンダーの多くが、BYOC構成を提供して、UC/CCサービスからPSTN接続ををアンバンドル(分離)しています。

UCaaSBYOC
Microsoft TeamsYes
Zoom PhoneYes
Ringcentral OfficeYes
Cisco WebEx CallingYes
FuzeYes

(↑ 日本語翻訳上の補足: 以下のCCaaSに関する表も含めて、日本国内市場におけるソリューションの関連性はマチマチであり、関連性が薄いもの(例: RingCentral)も一部含まれます。また「Yes/No」の表記は、オリジナルの英語ブログ記事が投稿された時点での情報となります。)

CCaaSBYOC
Genesys (Cloud CX)Yes
Amazon Connect
NICE (inContact)Yes
Twilio FlexYes
TalkdeskYes
Five9Yes

BYOCとは

Bring Your Own Carrier (BYOC) とは、UCaaSとCCaaSプロバイダーが提供するオープンテレフォニーインターフェースであり、Twilio Elastic SIP Trunkingサービスなどの互換性のあるPSTNサービスプロバイダーに接続します。BYOC構成により、クラウド通信サービスプロバイダーは外部のサービスプロバイダーを通信経路として使用し、PSTN経由で通話を発着信できるのです。技術インターフェースとしてはIETFの規定するSession Initiation Protocol(SIP)に準拠しており、テレフォニーチャネルの集合はトランクと呼ばれています。PSTNアクセスプロバイダーは、SIPトランクサービスプロバイダーと呼ばれています。(例: Twilio)

native-byoc-jp

(↑ バンドル型PSTN接続(左側)とBYOCソリューション(右側)の比較)

場合により、UCaaSサービスやCCaaSサービスとSIPトランクプロバイダーを接続するためにEnterprise Session Border Controller(E-SBC*)を介して通話をルーティングする必要があります。他のケースでは、2つのクラウドサービスを直接接続します。(* 日本語編集上の補足: ハードウェアの場合やクラウドサービスの場合などがあります。)

DIDや着信課金番号についてはSIPトランクプロバイダーから購入・管理します。UCaaSサービスでは、クラウド通信プロバイダーによりこれらの番号がユーザーIDにマッピングされます。CCaaSサービスでは、受信するDIDと着信課金番号がキュー(業務グループ)に関連づけられます。これは、オンプレミス型コンタクトセンターインフラストラクチャの場合と同じです。

BYOC構成のメリットとデメリット

BYOCが最適な選択肢とはならない場合もあります。判断する前に、メリットとデメリットをそれぞれ慎重に検討してください。以下に、重要な比較ポイントをいくつか挙げます。

BYOCのメリット

  • グローバルな対応範囲 - 選択するSIPトランクサービスプロバイダーにより、DIDや着信課金番号を利用できる地域がUCaaS/CCaaSプロバイダーよりも広い場合があります。例えば、Twilio Elastic SIP Trunkingは100か国でサービスを展開しています。
  • 低料金 - 料金的なメリットを見いだせる場合があります。また、価格交渉力を結集することにより、専門のSIPトランクプロバイダーと好条件で取引できる場合があります。例えば、コンタクトセンター、VoIP/UC、その他のトラフィックをすべてまとめることにより、各クラウド通信プロバイダー間で電話サービスが分かれている場合よりも購買力を強化できます。
  • コントロールの拡大 - SIPトランクサービスでは、PSTNとクラウドアプリケーション間の抽象化レイヤーが提供され、電話番号とルーティングを独立して管理できます。セッションハンドオフ前にルーティングポリシーをUCaaS/CCaaSプロバイダーに適用できるので、架電時の発信元電話番号や受信ルーティングなどを柔軟に制御できます。また、UCaaS、CCaaS、オンプレミスインフラストラクチャ間で、DIDや着信課金番号のプロビジョンと再割り当てが容易に行えます。
    Twilioでは、TwiML言語や貴社側のアプリケーションコードを使用して、精緻なルーティングロジックを適用可能です。また、クラウド移行の制御性が高く、必要に応じてサービスをオンプレミスインフラストラクチャに迅速にロールバックできます。
  • 一貫した品質の高さ - 専門のSIPトランクサービスプロバイダーは高品質かつ信頼性の高いPSTN電話サービスを提供します。多くの場合、サービスレベル合意書(SLA)により品質が保証されています。Twilio Elastic SIP Trunkingの場合、通話はSuper Networkと呼ばれるインフラストラクチャ上でルーティングされます。複数の冗長ルートを横断して通話が継続的に最適化され、通話品質は最高水準に保たれます。

BYOCのデメリット

  • 複数のサービスプロバイダー - SIPトランクサービスプロバイダーの選択には時間と手間がかかるうえ、複数ベンダーへの支払いを管理する必要があります。
  • 場合によりE-SBCが必要 - E-SBCの導入と運用のために、追加コストと管理オーバーヘッドが発生する場合があります。E-SBCはクラウド通信サービスをSIPトランクプロバイダーに接続するための機器もしくはソフトウェアサービスです。

多国籍eコマース企業がBYOC構成を選択した事例

欧州を拠点とする大企業の事例を基に、BYOC構成に関する意思決定プロセスについて説明します。この企業では、23カ国に広がるオフィス28拠点において、オンプレミスのVoIPインフラストラクチャとSIPトランクサービスをつぎはぎで使用していました。電話料金の高さと極度の管理オーバーヘッドに直面した同社は、提案依頼書(RFP)を通して選択肢を評価することにしました。

このeコマースマーケティングサービス企業が設定した目標は、通信サービスの簡素化と統合、そしてコスト削減でした。同社は電話機とサーバーハードウェア、そして関連するメンテナンスを廃止し、本社のITチームが28拠点のオフィスすべての通信サービスを一元管理できるようにしたいと考えました。

同社はサプライヤーとしてZoomとTwilioを選びました。同社がZoom Phone UCaaSサービスを選んだ理由の1つは、すでにZoomミーティングサービスに慣れていたことです。同社はZoom社のUCaaSサービスとTwilio Elastic SIP Trunkingを組み合わせることを選択しました。このデュアルベンダーソリューションは、すべてのオフィス拠点をカバーし、一貫した品質と一元管理を実現します。

ソリューションの最初の導入から数か月が経過し、ITチームは依然として満足しています。一元的な制御により、サービスを全従業員に迅速かつ容易に展開できました。いずれのオフィス拠点においても、電話番号とトランクのプロビジョニングは数分で完了できます。

BYOC構成は貴社に適しているのか?

クラウド通信プロバイダー各社がBYOC構成をこれほど広めてくれたことにワクワクしています。ただし、BYOCはすべての組織に適しているわけではありません。トレードオフは多数あります。バンドル型PSTN接続ソリューションの主なメリットは、ワンストップショップです。一方、BYOC構成はTCOや自由度の点でメリットが出やすく、多くの地域で構成することが可能です。

クラウド通信サービスへの移行を開始する前に、これら2つの主要な選択肢を慎重に検討し、適切なものを選択するべきとTwilioでは考えています。